労働保険審査会採決事例

所定時間外に負傷した特別加入者の労働者資格

 

 中小事業主として労災保険に特別加入していた木材関係を取り扱う請求人が、ある冬の日の夕刻、所定労働時間外にトラック作業をしていたところ、誤ってトラックの荷台から転落、負傷した。これが労災保険の特別加入者の申請する業務に起因する行為であって、労働者資格がみとめられるか否かが問われた。 平成19年裁決)

 

再審査請求人    R請求人

原処分庁 S県労働局・T労働基準監督署長

 

 主文

請求人が被災時に行っていたトラックの運転、木材の運搬等の業務は、認定基準に該当するものと認められ、監督署長が請求人に対してした休業補償給付を支給しない旨の処分は失当でお免れない。(監督署長の決定は不当であるという決定)

 

理由

 

第1 再審査請求の趣旨

 請求人の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるというにある。

 

第2再審査請求の経緯

 請求人は、S県U地所在の木材関係を扱う家族従事者であり、労災保険法による中小企業事業主等として労災保険に特別加入していた。

 請求人は、主として立木及び雑木の伐採、搬出及び木材市場への販売委託に従事していたところ、ある年の冬の日、午後6時15頃、トラックに積み込んだ木材をトラックから降ろす際に、誤ってトラックの荷台から2.5メートル下へ転落し(以下「本件傷病」)の負傷をした。

 請求人は、本件傷病は業務上の事由によるものであるとして、T監督署長に休業補償給付の請求をしたところ、T監督署長は、請求人の負傷時の行為には特別加入者(中小企業事業主等)としての業務遂行性が認められず、したがって、本件傷病は業務上の事由によるものとは認められないとして、これを支給しない旨の処分をした。

 

第3、争点

 本件の争点は、請求人の本件災害発生時が所定労働時間外で、本件傷病が労災保険の特別加入の業務に起因する行為であって、労働者資格が認められるか否かにある。

 

第4 事案の認定及び審査会の判断

1 請求人は、本件災害発生当時、労災保険法第33条第2号の中小企業事業主の家族従事者

として、労災保険法上、特別加入していたことが認められる。

2 次に、特別加入者の業務災害について労災保険法第37条は、同法第4章の2(特別加

入)に定めるもののほか必要な事項は厚生労働省令で定める旨規定し、同条の規定に基づき、労災保険法施行規則第46条の26は、特別加入者の業務災害の認定は厚生労働省労働基準局長が定める基準によって行うと規定している。したがって、特別加入者の業務災害の認定については、この厚生労働省労働基準局長が定める基準(以下「認定基準」という)により行われることになる。

 

ロ 労働省(現厚生労働省)労働基準局長は、認定基準を定めており、本件災害発生当時における要旨は次のとおりである。

 中小企業事業主等の特別加入者については、次の場合に限り、業務遂行性を認めるものとする。

(1) 特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された労働者の所定労働時間(休憩時間を含め

るものとする)内において、特別加入の申請に係る事業のために為す行為(当該行為が事業主の立場において行う事業主本来の業務を除く)及びこれに直接付随する行為(生理的行為、反射的行為、準備・後始末行為、必要行為、合理的行為及び緊急業務行為をいう)を行う場合。

(注)特別加入者が特別加入申請書に記載した労働者の所定労働時間内において業務を行っている場合は、労働者を伴っていたか否かに」かかわりなく、業務遂行性を認めるものである。

(2)労働者の時間外労働または休日労働に応じて就業する場合

(注)労働者の所定労働時間外における特別加入者の業務行為については、当該事業場の労働者が時間外労働を行っている時間の範囲において業務遂行性を認めるものである。

 

(3)就業時間(時間外労働を含む。以下同じ)に接続して行われる準備・後始末の業務を特別加

   入者のみで行う場合。

(4)上記(1)、(2)、(3)の就業時間内における事業場施設の利用中および事業場施設内

   で行動中の場合。

3 上記の認定基準に照らして本体を判断すると、次のとおりである。

  • イ まず、請求人が有効に特別加入していたか否かについてみる。会計は、請求人の本件災害並びに本件傷病当時、労働者を使用していなかったものとみられるが、1年前の5月まで2人の労働者を雇用していたこと、請負契約による業務の内容及び売上高によっては労働者を使用して業務を行いたいと考えていたこと及び1年前の年度分の労働者及び特別加入者に係る保険料は納付済みであること等から、請求人は、中小企業事業主等として有効に特別加入していたものとみるのが相当である。
  • ロ そこで、上記認定基準に照らして本体について判断する。
    • 請求人について、本件災害が発生したのは、午後6時15分頃であり、この時間帯は、特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された所定労働時間外のものであり、また、一緒に作業していたのは請求人の妻のみである。一方、特別加入申請書別紙の業務又は作業の内容欄には、「木材伐出業」と記載され、請求人の妻は、「最後まで常用労働者として働いていたのは、WとXで、Wには木を切る仕事を、Xには主として日中のトラックでの運搬、その他に、木を切る手伝いをしてもらっていた」とし、請求人は、「(労働者であった)Xの仕事は、トラックの運転業務(現場で切り出した雑木等を得意先へ運搬)で、運転しない時間は、トラックの積込作業や下刈り等の作業を行わせ、所定労働時間で終了させていた」、「私の通常業務は、伐採、造材及び枝打ちが主で、その他トラックの運転業務がある。トラックの運転業務は、多い日で3回くらい行うが、平均すると1日1回である」とする。
    • 請求人の妻は、「最後まで常用労働者として働いていたのは、WとXで、Xには主として日中、トラックでの運搬をしてもらっていた」、「トラックを運転して材木を運ぶ作業は請求人とXがしていたが、Xは日中にトラックに乗って材木を運搬しており、WやXが辞めた後、請求人がトラックでの運搬をするようになり、午後5時以降するようになった」、「山の仕事は危険が伴うが、日が暮れてからはより危険となるため、明るいうちに山での作業を行い、午後5時に私が帰宅するのに合わせて、請求人がトラックで運搬するようになった」等としている。
  • ハ こうした状況にかんがみて、請求人の本件災害時の行為の性質について検討するに、請求人の事

業に係る種々の業務のうち、木材の伐採は、特別加入申請書別紙記載の業務又は作業の内容欄記載の事項及びかつて就労していた労働者の就労状況からみて、事業内容及び特別加入の申請に係る事業のためにする行為であって、しかも事業主の立場において行う事業主本来の業務ではないものとみられる。一方、請求人の妻が、「日が暮れてからは、山の仕事は更に危険になるため行わず、午後5時には木材運搬用のトラックで運搬を開始する」旨申述していることにかんがみれば、特別加入申請書別紙の業務又は作業の内容欄記載の業務終了時間である午後5時以降に行われた業務については、事業内容及び特別加入の申請に係る事業のためにする行為であるか否かは不明確であり、むしろ、これに付随する準備・後始末の行為であるとみるべきと考えられるところ、この点を踏まえれば、少なくとも、本件においては、トラックの運転及び木材の運搬等の作業のうち午後5時以降に行われたものについては、特別加入の申請に係る事業に付随する準備・後始末の行為であると認められる。

 

以上を踏まえれば、請求人が本件災害時(特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された所定労働時間外)に行っていたトラックの運転、木材の運搬等の業務は、請求人が、木材の伐採という特別加入の申請に係る事業のためにする行為に接続して行われる準備・後始末の業務を特別加入者たる請求人のみで行ったものと考えられ、これは上記認定基準の(3)に該当するものと認められる。

 

4 したがって、監督署長が請求人に対してした休業補償給付を支給しない旨の処分は失当であ

り、取り消しを免れない。

 

月刊社労士2015年12月号より

広島の社会保険労務士、社労士 西田事務所

 

 

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