残業手当を定額で支給する場合の留意点

 

Q 卸売業です。当社では、毎月、営業社員に対して残業手当を営業手当として定額で支給しています。残業手当の単価を計算して何時間分までの残業手当を含むと通知し、残業が少ない場合も固定で支給しています。また、残業手当の単価計算においては定額払いの残業手当は除外しています。こういうやりかたで問題ないでしょうか。

 

 

 

お答えします

 

 定額の残業手当に何時間分の時間外手当が含まれているかを明確にすることが必要です。また、固定で支払う残業手当の範囲内の時間外労働であるとしても、毎月、何時間の時間外労働があったかを明らかにする必要があります。それを前提にして、定額払いの残業手当を支給することには特に問題はありません。

 

また、実際の時間外労働時間数が見込みの時間外労働時間を上回った場合には、差額を支給しなければなりません。(先月、余分に払っているから今月の超過分に充当するということはできません)

 

 

 

 

ご参考

 

  1. 時間外労働に対する割増賃金

     労基法371項では、「使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の25分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない(一定規模以上事業所)」と規定しています。

     政令で定める率とは、時間外労働については25分、休日労働については35分とされています。

  2.  固定時間外手当に関する解釈および判例

     先の例のように事業所によっては、毎月決まった時間外手当を支給する方法を採用している場合があります。

     この点につき、行政解釈では、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下廻らない場合には、法第37条の違反とはならない」としています。

     裁判例においても、セールス手当という名称で時間外手当を定額払いしていた制度につき、「労働基準法37条は時間外労働等に対し一定額以上の割増賃金の支払を使用者に命じているところ、同条所定の額以上の割増賃金の支払いがなされるかぎりその趣旨は満たされ同条所定の計算方法を用いることまでは要しないので、その支払額が法所定の計算方法による割増賃金額を上回る以上、割増賃金として一定額を支払うことも許されるが、現実の労働時間によって計算した割増賃金額が右一定額を上回っている場合には、労働者は使用者に対しその差額の支払を請求することができる」とし、「被告の給与規則では、基本給及びセールス手当は前月21日から当月20日までの分が給与の一部として25日に支払われ、超過勤務手当及び休日勤務手当についても月単位で集計され同様に25日に支払われる旨定められていることは前認定のとおりであるところ、右事実からして、前月21から当月20日までの1ヶ月間における実際の所定時間外労働に対応する賃金とセールス手当ての額を比較し、前者が後者を上回っているときはその差額を請求できると解するのが相当である」と判示しています(関西ソニー販売事件 大阪地裁 昭631026判決)

  3. 、定額時間外手当を導入する上での留意点

     このように、定額で時間外手当を支払うこと自体については、違法とはなりませんが、法所定の計算による割増賃金を下回る場合には、その差額を支給しなければなりません。

     

     この差額の取り扱いについては、労基法24条の規定により、当該賃金計算期間に応当する賃金支払日に支給しなければなりません。

   また、仮に、見込んだ時間外労働時間数に満たない月があったとしても、これを理由に、過不足

   を精算する取り扱いは24条違反となります。