ある外国人の遺族年金

20××年某月某日
 ある外国料理店にコックとして勤めていた外国人が、在職中に死亡したが、何か

補償 してもらえるものは無いのだろうかという相談が、死亡した外国人の代理人である日本人から、当事務所に舞い込んだ。
 事業主からは香典しか支給されないし、その外国人コックの仕送りを頼りに生活していた本国の遺族が抜 き差しならぬ状態で大変困っているという。
 在職中ならば、外国人といえども遺族年金が支給されるはずであると考えた。ところが、その店は、社会保険の適用事 業所にはなっているものの、経営が苦しいとかで、一部の日本人労働者しか社会保険に加入させていないようで、当の外国人も健康保険、厚生年金の資格取得をしておらず、遺族年金の請求は出来ないのだという。
 社会保険は、強制加入だが、死亡時に加入しておらず、死亡後に遺族年金目当てに加入するということは果たして可能 か。また、死亡後の資格取得が年金給付に結びつくものなのか。  


 
 一般の生保ではこのようなことは認められるはずがない。
 なぜなら、このような取り扱いは、制度破綻につながるからです。
 ところが社会保険では可能だったのです。

 つまり、なんらかの事情で社会保険に未加入状態で労働者が死亡した場合、遺族年金の受給対象者がいるときに、死亡後、事業主を通じて社会保険加入手続きをとり、遺族年金を請求するというような手続を行ったとしても、条件さえ合えば遺族年金は支給されるのです。

 死亡ではなく、本人が障害者になったときも同じことでしょう。

 保険事故が発生した後から加入手続きをしたとしても、通常通り支給しないわけにはいかないということなのです。

 

 強制加入とはそういうことです。


 制度の採算性を考えた場合、とてもそんなことが許されるはずはありませんし、仮に労働者保護の観点から認められるにしてもなんらかのペナルティはあってしかるべきではないかと考えます。加入すべき者を加入させていなかったのですから。
 
 このことについていろいろと聞いてみますと、当然知っているべき専門家でも知らない人がたくさんいるのには驚きました。まさか正義感から知らない振りをしているとも思えません。

 国民年金の場合であれば、受給要件を満たしていない人が死亡または障害発生後、遡って保険料納付をしてもそれは受給要件を満たすことにはつながりません。
 職域の社会保険のみ、仮に逆選択となろうとも、勤務状況が社会保険の加入要件を満たしていることが立証されれば遡及して社会保険加入、それに伴う給付が可能ということなのです。
 今回は、このような甘い取り扱いで、当該労働者遺族は救われることになりましたが、実にやりきれない思いです。実にあいまいな社会保険制度を痛切に感じます。

 おっと、そんなことばかり言っていると仕事を失いますな。