労働条件の不利益変更の意義

1. 労働条件の不利益変更の意義と方法

 労働条件の「不利益変更」とは、労働契約内容である労働条件を将来に向けて労働者の不利益に変更することを意味します。また、成果主義の導入のように、当該制度導入でストレートに賃金がさがるわけではありませんが、今後の成果によっては賃金が下がる可能性があるという場合にも、不利益変更に該当するとされています。つまり、現実の不利益の有無は問わず、不利益の可能性があり、不安定な条件となる場合も含めて「労働条件の不利益変更」に該当すると解されています。労働条件を変更するための方法としては、以下の3つの方法があるといえます。

① 労働者と使用者の合意によって変更する。

② 就業規則の改訂によって変更する

③ 労働協約の改訂によって変更する

そして、繰り返し説明してきたように、労働契約も私法上の契約である以上合意により成立するのが原則であり、その内容の変更もまた合意で行われるのが原則であって、これらについては労働契約法上明文で確認されています。

よって、労働条件の不利益変更の方法としては、本来であれば上記①の合意による変更が大原則であり、②及び③は例外的な位置づけであることを理解することが重大です。

2. 労働契約内容の変更は合意によるのが原則(労働契約法8条)

 1.で説明したとおり、労働契約も私法上の契約である以上、合意により成立し、その内容の変更もまた合意で行われるのが原則です。この点、労働契約法8条は、「労働者及び使用者は、その合意により。労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」として、労働契約の内容(労働条件)の変更が合意でなされるものであることを明確に規定しています。

また、上記のほか、労働契約法1条は、「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約の基本的事項を定めることにより...」と定め、同3条1項も、「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」と定めており、労働契約法は、労働契約の変更についても合意の原則が基本原則であることを重ねて確認しています。

3.就業規則による労働契約内容の不利益変更における合意原則(労働契約法9条)

2で説明した労働契約法8条に加え、労働契約法9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合はこの限りでない。」と定め、就業規則による労働契約内容の不利益変更における合意原則について規定しています。

 これは、就業規則の変更による労働契約内容の不利益変更について、前出の秋北バス大法廷判決が「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されない」と判示したところを確認するものといえます。

 労働契約法9条の合意原則は、「不利益な変更」にたいしてのみ定められています。これは、就業規則により労働条件が有利に変更された場合、すでに説明したとおり。労働契約法12条に基づき、就業規則の強行的効力によりこれを下回る労働契約内容が無効とされ、直立的効力により当該就業規則の内容が、合意によることなく労働契約の内容となるからといえます。

なお、労働契約法8条の合意と同9条の合意について、その性質を区別して論ずる見解もありますが、これには賛成できません。これらはいずれも、「契約内容の変更は合意による」との原則を確認的に規定したものであり、立法過程での議論もこれを超えるものではない以上、立法趣旨から離れた解釈は適切でないと考えます。